コラム
読書案内『わたしの聖書ものがたり 神さまの大いなる計画
飯田敏勝
多種多様な絵本聖書が出版されていますが、今回間違いなく逸品が出ました。N・T・ライト著、ヘレナ・ぺレス・ガルシア画、標珠美訳『わたしの聖書ものがたり 神さまの大いなる計画』(2024年、日本聖書協会)です。
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子ども向けの絵本聖書は過剰な脚色があったり、逆にシンプルに語るとしても、よく知られている物語をピックアップして並べることしかしていませんでした。一つ一つのお話とお話しとの関連や、聖書全体の流れについて明瞭に語っているものは、決して多くありません。
著者のライトは新約学者であり、聖書の文言の隅々にいたるまできちんと原文や歴史的背景を踏まえて説明できる方です。のみならず、聖書が全体として物語ろうとしていることが全体として物語ろうとしていることを信仰的に叙述できる方です。
これまでも注解書や大人向けの信仰に関する著作でライトを愛読していましたが、今回も期待は裏切られませんでした。
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冒頭「世界のはじまり」「エデンの園」と続くのは当然ですが、次に「人間の役割とは(詩8編)」との項目が入ります。堕落前に、本来神さまが人間に期待していた役割を明らかにし、関係のある話として、絵本最後の「イエスさまは新しいはじまり(ヨハネ1章)」を提示しています。
イエスさまによって、見失っていた人間の役割を取り戻せることが、聖書を一貫するテーマとして明示されます。わたしなどは膝を叩きながら頁をめくりましたよ。
救済史に基づく配列は基本ですが、「詩」や「律法」や「預言」や「知恵の言葉」など、聖書の大切な要素が所々に挿入されています。
神殿がソロモン王の時代に建つということは当然扱われるとしても、その後きちんと王国分裂や王と民の宗教的姦淫をも扱い、「神殿を去る神さま(エゼキエル10章)」を語った上でバビロン捕囚を扱います。
新約篇で使徒言行録のパウロの歩みを扱う中、彼の手紙の内容を盛り込む構成も見事です。中でもフィレモンへの手紙を盛り込んでいることには、ハリセンを叩きたくなりましたよ。愛と赦しの実践の最善例ですからね。
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絵についても述べたいことは多々あるのですが、頁が足りません。個別にいくらでもお話しします。
ともかくこの本、子ども向けと片付けず、聖書全体が何を言わんとしているかを捉えるための素晴らしい参考書です。ライトの記述を読みつつ、聖書自体も開いて、その箇所その箇所の真意と、前後のつながりや全体の流れを汲み取ってください。聖書に基づく信仰がきっと育ちます。